コラム

潰瘍性大腸炎、クローン病(IBD)における生物学的製剤(レミケードR、ヒュミラRなど)の使い分けは?

本日はレミケードR、ヒュミラRなどのいわゆる生物学的製剤に関して患者さんからよくいただく質問についてお答えしたいと思います。

1. 生物学的製剤を使うタイミングは?

一般的に生物学的製剤を使うタイミングは、潰瘍性大腸炎だとステロイド抵抗性、ステロイド依存の時があります。時々この判断はそれぞれの医師が勝手に判断しているのでは?と勘違いされる患者さんがいらっしゃいます。もちろんそうではありませんのでご安心ください。

私たち医師は必ず確立された治療指針に沿って判断しています。

その治療指針では次のように説明されています。

①「ステロイド抵抗性」とは、「ステロイド治療開始から1-2週間で効果がない」ことです。

②「ステロイド依存」とは「寛解導入後にステロイドを少しずつ減らしていく途中で病状が悪化する」場合です。

またクローン病はその病状によって初めての治療から使用することも珍しくありません。

 

2. 生物学的製剤の使い分けは?

抗TNFα製剤に限って説明をすると、潰瘍性大腸炎ではレミケードR、ヒュミラR、シンポニーR、クローン病ではレミケードR、ヒュミラRとそれぞれ選択肢があります。それではその使い分けはどうするのでしょうか?

結論からお伝えすると、それぞれの患者さんの状況に応じて使い分けます。

その際に私たち医師は、患者さんの病状の程度はどうか?チオプリン製剤を一緒に使えるかどうか?点滴なのか自己注射なのか?合併症(同時に既に持っている他の病気)があるのかどうか?など様々な項目を検討して実際に使う薬を決めていきます。

また例えば1つの薬を使い始めて、その後その薬が効かなくなってきた時には、残りの選択肢の薬に変更することも可能です。しかし一般的に、1つ目の薬の効果が落ちてきた時に他の薬に変えると2つ目の薬の効果はあまり期待できないことが多いです。

この原因はまだ明らかになっていませんが、この現象はこれまでの多くの臨床試験で確認されています。

そのため「最初に使う薬をどれにするのか」はとても大切なポイントです。ぜひ皆さんの主治医とよく相談されることをおすすめします。

 

3. その他の情報

どの生物学的製剤も高額なことで有名ですよね。その原因はいくつか社会的な事情があります。しかし新薬が開発されて実際に使えるようになるまでに製薬会社は数年間かけて、かつその費用が数百億円以上かかることも珍しくないことを考慮すると、いろいろ納得できるところもあります。

そのため外国では高額な治療費を払うことができず、治療を断念せざるを得ない患者さんがいることも事実です。理想的には出来るだけ安価で効果の高い薬を全ての患者さんが使えることですよね。また投与期間が数週間に一回で良いのは、血液中に長期間保持されたりその効果が持続することが開発段階の研究で証明されているからです。

実際に使用する前にはB型肝炎の検査が必要です。HBs抗体陽性の場合には、必要時にはB型肝炎のDNAの値を調べたりすることがありますので、ぜひ主治医の先生からの説明をよく聞いてくださいね。

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病は気から!?心の状態と身体のつながり

執筆者:堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)

こんにちは、院長の堀田です。

ヒトの腸の働きを学ぼうでは、腸の状態が全身の精神的状態にも関わる可能性を紹介しました。

今日は「病は気から!?」といわれる一例として「炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)では、精神的状態が病状に影響する」ことが示されていますのでご紹介したいと思います。

 

(1) 腸と精神的状態の関係

脳と腸が自律神経やホルモンなどを介して関連していることは脳腸相関といわれます。最近はこの「腸」に病変を生じる炎症性腸疾患と、脳が関わる精神的状態に関連があるという可能性が指摘されるようになってきました。

この分野はまだ取り組みが始まったばかりで、まだ未解明な領域が多いです。そのため例えば「精神的ストレスが炎症性腸疾患の原因になる」のかどうか、はっきりとわかっていません。

しかし興味深いことに、海外では「精神的ストレスがあることが炎症性腸疾患が悪化する原因になりうる」1ことが示されています。このことから、やはり精神的状態が腸の病気である炎症性腸疾患に影響を及ぼす可能性は否定できません。

 

(2) 精神的状態を良くすれば、炎症性腸疾患にも良い影響が?

現在ではまだ「精神的状態を良くすることで、炎症性腸疾患が良くなる」ことは証明されていません。しかし海外では、炎症性腸疾患の患者さんの治療においては心理面などへの配慮が大切であり必要時には精神科医や心理士などの専門家が対応することが勧められています。

この心理面への配慮は、難病に指定され未だ完全に治すことが難しい炎症性腸疾患においては長い間の治療を続けていく必要があるという点からもとても大切なことだと思います。

これからこの分野の研究等が進み「炎症性腸疾患を完全に治して乗り越える」助けになることに期待したいと思います。

 

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参考文献

  1. Bernstein CN, et al. Am J Gastroenterol, 105: 1994-2002, 2010

ヒトの腸の働きを学ぼう

執筆: 堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)

 

こんにちは、院長の堀田です。

 

今日は潰瘍性大腸炎、クローン病に共通して病状を生じる「消化器」といわれるヒトの腸について一緒に学んでいきたいと思います。

 

(1) 消化器とは?

 

消化器の臓器というのは胃や大腸などが挙げられますが、これらの臓器は私たちが食べた食物が体の中を通っていく道筋を考えるとイメージがしやすくなると思います。実際には入り口から出口までの順序で、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸となります。

そしてもちろんこの消化器の臓器の最も大切な機能は、食べ物を消化し、吸収することです。また近年はこれらの機能だけでなく、免疫系のとても大切な機能もあることがわかってきました。

 

(2) それぞれの消化器の臓器の役割

 

次にそれぞれの消化器の臓器の構造や機能を紹介したいと思います。

 

 

出典:イラスト AC

 

①食道

約20-20センチメートルの長さで、主な機能は食べ物を胃に送ることです。この食道はクローン病で時に潰瘍などの病変ができることがあります。

 

②胃

袋状の構造をしており、最も大切な機能の一つは、食物をためて、消化することです。そのため胃の粘膜からは胃酸が分泌され、また胃が縮んだり拡がったりすることで食べ物が胃酸とよく混ざり合い消化が進んでいきます。この胃酸の濃度は、胃の中を頂点に食べ物が通っていく以下の臓器である十二指腸、小腸、大腸にかけて下がっていきます。

ここで一つ豆知識です。炎症性腸疾患の薬の中で、5-ASA製剤と呼ばれる薬にはこの胃酸の濃度の変化を利用して、薬を効率的に大腸に行き渡らせる工夫をしたものがあります。胃もクローン病で特徴的な病変を作ることがあります。

 

③十二指腸

胃と比べると粘膜が大きく変化を始め、食べ物と接する表面積を増やすための絨毛(じゅうもう)という構造が現れてきます。

 

この絨毛は髪の毛のブラシの毛のような構造で、腸の中に細く突き出た構造をしています。この構造があることで、食べ物と接触できる面積を多く確保することが可能となっています。

 

そしてこの絨毛を用いて胃酸の濃度が高い食べ物が十二指腸に入ったことを感知してホルモンを分泌します。この刺激により膵臓(すいぞう)から食べ物を消化するための酵素(こうそ)(消化酵素)が混ざった膵液が活発に分泌(ぶんぴつ)されて出るようになり胃酸の中和が始まります。

また同じように十二指腸からの刺激により胆汁(たんじゅう)の分泌も増えて、食物の中の脂肪を吸収できるようになります。

 

④小腸

主な機能は糖分や脂肪、ビタミンなど栄養素の吸収です。十二指腸と同様に粘膜に絨毛という構造があることで消化されている食物と接する面積を大きくしているという特徴的な構造をしています。また小腸には免疫(めんえき)と呼ばれる私たちの体を守ってくれている組織が発達しているパイエル板と呼ばれる構造もあります。

小腸はクローン病で最も病状が起きやすい臓器であるため、手術で大部分を切除してしまうといわゆる「短腸症候群(たんちょうしょうこうぐん)」と呼ばれる栄養素が吸収できない状態になります。これは栄養の補給のために日々点滴が必要になってしまう状態で、クローン病において手術を繰り返す患者さんで時に生じてしまう難しい問題です。

 

⑤大腸

主な機能は水分を吸収すること、多くの腸内細菌を蓄えることです。

 

大腸で便の水分がしっかりと吸収されることで通常の便は形を保つ、いわゆる「バナナ」のような便になります。しかし潰瘍性大腸炎で大腸に炎症が起きてしまうと水分の吸収ができなくなり水っぽい下痢になってしまいます。

また大腸に多く存在する腸内細菌のうち、私たちの健康維持に必要な「良い」菌がいることがわかってきました。また最近では腸内細菌が肥満や精神状態など全身に影響を及ぼしている可能性も指摘されています。

 

このように消化器の臓器はそれぞれが大切な役割を果たしていますが、これらの臓器のうち、潰瘍性大腸炎は主に大腸のみに、クローン病は全ての消化器の臓器に潰瘍などの病変を起こしてしまう病気です。その病変の場所によって、例えば潰瘍性大腸炎の下痢のようにそれぞれの病気で特徴的な症状が起きてくるのです。

また最近では「病は気から」ではなく、「病は腸から」とも言われるように、腸内細菌を含めた腸の状態が精神的状態を含めた全身に影響している可能性が指摘されてきています。とても興味深い点ですね。

 

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潰瘍性大腸炎と診断されたら確認したい3つのこと

執筆者:堀田 伸勝(消化器専門医・医学博士)

こんにちは、院長の堀田です。今日は改めて、基本的なことですが潰瘍性大腸炎の患者さん方へとても大切なことをお伝えしたいと思います。

 

自分の重症度と病型を知る

初めて診断をされた時、また診断から治療が始まり時間が経過した現在でも、常に自分の重症度と病型を意識しましょう。(この重症度と病型は時間が経過するにつれてどんどん変化していくことが珍しくありません。常に同じではないのでご注意を!)

「重症度」は「病気の強さの程度」のことで、軽症、中等症、重症に分かれます。

「病型」は「大腸における炎症粘膜の範囲」のことで、基本的に直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型に分かれます。

全ての潰瘍性大腸炎の患者さんはいずれかの組み合わせに当てはまります。例えば患者Aさんは「軽症の直腸炎型」であったり、患者Bさんは「中等症の全大腸炎型」です。皆さんはどうでしょうか?

この組み合わせによって治療方針が決まりますので、ぜひ改めてご自身の病状を意識して下さいね。

 

現在の治療薬を知る

皆さんは現在何の薬を使用中でしょうか?ペンタサR、アサコールR、ペンタサR坐剤、プレドニンR、レミケードRなど多くの薬があります。

ぜひ現在使用中の薬の名前と、その副作用の内容を確認しましょう。

薬によっては長期間使用していく途中で数年後に副作用が突然起きるものもありますので、ぜひ改めて一度主治医の先生や薬剤師の方にご自身の薬のことを確認しましょう。

 

今後の治療が生涯続くことを意識する

残念ながら潰瘍性大腸炎は現在国の難病に指定されており、一般的に完治することはありません。ということは、生涯この病気と付き合っていかなければいけません。

しかし最近は様々な新しい薬が開発されており、「適切な治療」を「中断することなく」継続していけば、ほとんどの患者さんで安定した状態「寛解期(かんかいき)」を長く保つことが可能になってきています。

また特に大切なことは、病気になってから数年間が経過すると、潰瘍性大腸炎に特有の大腸癌が起きる可能性があることを意識することです。

この大腸癌は一般的な大腸癌よりも発見が難しく、また進行が早いことがありますので、ぜひ1年毎などの定期的な内視鏡検査を忘れないようにして下さいね。

 

これら3つのことを、本日改めて皆さんで確認していきたいと思います。

今後も治療を継続することで、安心して日常を過ごすことができれば幸いです。

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